集合住宅の共用廊下で、ある部屋の玄関前に立ち、訪問しようか迷っている賃貸管理担当者

ゴミ屋敷かもしれない部屋、責めずに状況を確認する訪問の順番

「203号室、ゴミがすごいことになってるみたいですよ」

隣の部屋の方からそう言われて、共用廊下を歩いていくと、確かに玄関の前に段ボールが積んである。郵便受けからはチラシがはみ出している。ドアの下の隙間から、少しにおいがする気もする。

そこまで見て、足が止まる。ノックしていいのか。何て言えばいいのか。もし本当に部屋の中がそうなっていたら、そのあと自分は何ができるのか。心当たりのある方は、たぶん少なくないと思います。

この件が重いのは、対応が難しいからだけではありません。相手の暮らしそのものに触れる話だからです。設備の故障なら業者を手配すれば済みますが、ここには手配先がない。だから、ひとりで玄関の前に立って固まってしまう。

結論:この件は、①共用部で見える事実を集める → ②玄関先で「困っていることはありませんか」から聞く → ③自分と会社だけで抱えず、家族・相談窓口につなぐ、この3段階で進めます。いちばん大事なのは②を「片づけの注意」にしないこと。片づけの話から入ると、ほぼ確実にドアが閉まります。そして部屋の中の物を、こちらの判断で捨てることは絶対にできません。ここだけは、最初に握っておいてください。

進める順番は、こうなります。

  1. 共用部と外側から、見える事実を集めて記録する
  2. 予告してから訪問し、玄関先で様子と困りごとを聞く
  3. 家族・オーナー・相談窓口につなぎ、小さな範囲から合意する
共用部で見る、玄関先で聞く、相談窓口につなぐの3段階を左から順に絵とラベルで並べた図
順番を飛ばさないことが、いちばんの近道になる。左から右へ、この順で進める。

何が起きているか

まず、前提をひとつ共有させてください。

部屋の中に物がたまっていくのは、だらしなさの結果とは限りません。 現場で実際に多いのは、体調を崩して片づけられなくなった、家族を亡くしてから手がつかなくなった、仕事が変わって生活のリズムが崩れた、加齢で重い物を運べなくなった——そういう経過です。本人がいちばん困っていて、いちばん人に見られたくない。だからこそ、インターホンに出てもらえない

ここを「困った入居者」として見てしまうと、最初の一言が変わります。相手はその一言で身構え、次からドアが開かなくなります。最初の訪問で関係が決まるというのは、この意味です。

もうひとつ、実務の前提として押さえておきたいことがあります。

専有部の中は、こちらが自由に立ち入れる場所ではありません。 契約書に「貸主は必要な場合に立ち入ることができる」といった条項があっても、通常は入居者の承諾を得ることが前提です。承諾のないまま鍵を開けて入り、物を運び出す——これは自力救済にあたる行為で、法的に認められていません。よかれと思って片づけたのに、あとから賠償や刑事の話になってしまう。ここは、善意でも越えられない線です。

例外として動けるのは、火災や漏水など生命・身体・財産に急迫の危険があるときに限られます。「においがひどい」「虫が出る」は、つらい状況ではありますが、この例外にはあたりません。判断に迷ったときは、その場で入らず、オーナーと社内に一度持ち帰る。急がないことが、結果的にいちばん早いことが多い件です。

そして、契約上の根拠についても。入居者には、借りた部屋をふつうの注意を払って使う善管注意義務があります。ただ、これを理由にすぐ契約解除できるかというと、そうではありません。賃貸借の解除は、当事者の信頼関係が壊れたと言えるかどうかで判断されるのが実務の考え方です。物が多いというだけでは、そこには届きません。腹をくくって長期戦、というより、そもそも短期で終わらせる手段がない案件だと知っておくほうが、気持ちが楽になります。

① 共用部と外側から、見える事実を集める

いきなりノックしないでください、というのが最初のお願いです。訪問の前に、外側から分かることを集めるほうが、話が早く進みます。

見るのは、この4つです。

1. 共用部の状況。 玄関前の廊下、階段、ベランダ。物がはみ出しているか、避難の通り道をふさいでいないか。ここは専有部ではないので、管理する側が正面から対応できる場所です。消防法でも、廊下や階段など避難上必要な場所に、避難の支障になる物を置かないことが求められています。共用部の話は、専有部の話とは分けて進められます。共用部の片づけの声かけの順番は、共用部の私物放置、片づけてもらうまでの声かけの順番に整理してあります。

2. においと虫。 どこから、どのくらいの範囲に及んでいるか。上下階か、隣か、廊下全体か。においは主観が入りやすいので、「いつ・どのあたりで・どんなにおいがしたか」を日付つきで書くだけでも、あとの判断材料になります。原因の切り分けは「隣が臭う」と相談されたら、異臭の原因を切り分けて動く順番「虫が出る」と苦情が来たら、専有部か共用部かを切り分けて動く順番が使えます。

3. 生活の様子のサイン。 郵便物がたまっていないか。メーターは動いているか。夜に照明はつくか。ここは、片づけの話である以前に安否の話でもあります。数日連絡が取れず、生活の気配がないなら、片づけより先に安否確認です。手順は連絡が取れない入居者への対応、安否確認まで段階を踏む手順にまとめています。

4. 契約情報。 契約者本人が住んでいるか、同居人はいるか、緊急連絡先は誰か、いつから住んでいるか、家賃の入金は続いているか。家賃が急に遅れ始めた時期と、部屋の様子が変わった時期が重なることは、実際によくあります。

集めた事実は、クレーム対応履歴の残し方、後で活きる記録テンプレの作り方の形で1か所にまとめます。ここで大事なのは、推測と事実を分けて書くことです。

この2行を分けておくと、オーナーへの報告でも、あとで書面を出すときにも、そのまま使えます。見ていないものを見たように書かない。これは自分を守る書き方でもあります。

なお、写真は共用部から見える範囲までにしておきます。ドアの内側にレンズを向けるのは、承諾がない限り避けてください。

② 予告してから訪問し、玄関先で聞く

事実がそろったら、訪問です。ここが山場になります。

訪問の前にやること

予告を1枚入れます。 突然のノックは、身構えさせるだけです。ポストに、こんな短い文面を投函しておきます。

203号室
◯◯ ◯◯ 様

いつもお世話になっております。◯◯不動産 管理部の◯◯です。

建物の設備点検と、お住まいの状況の確認のため、
下記の日時にお伺いしたいと考えております。

 日時:8月◯日(◯)14:00頃
 用件:設備の確認、お困りごとのご相談

ご都合が合わない場合や、別の日をご希望の場合は、
下記までご連絡ください。日時は調整いたします。

 ◯◯不動産株式会社 管理部 ◯◯
 TEL ◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯(平日9:00〜18:00)

この文面で意識しているのは3つです。

玄関先での最初の一言

ドアが開いたら、部屋の中を見ないでください。まず、目の前の人を見ます。

そして、最初の一言はこれです。

「お忙しいところすみません。◯◯不動産の◯◯です。最近、何かお困りのことはありませんか。

片づけの話は、こちらからは切り出しません。相手が自分から話してくれるのを待つのが、いちばん早い道です。実際、この一言で「実は……」と話し始める方は、決して珍しくありません。ずっと誰にも言えずにいた、という場合が多いからです。

避けたい言い方も、はっきりさせておきます。

聞きたいのは、状態ではなく事情です。体調はどうか。困っていることはあるか。頼れる人は近くにいるか。この3つが分かるだけで、次の一手が決まります。

部屋に上がるかどうか

招き入れられない限り、上がりません。 玄関先で十分です。玄関から見える範囲だけで、危険の有無はある程度わかります。

見ておきたいのは、片づけの進み具合ではなく、急ぎの危険があるかどうかです。

ここに引っかかるものがあれば、片づけの相談より先に、その1点だけをお願いします。「全部片づけましょう」ではなく、「まずコンロの周りだけ、一緒に空けませんか」。手が届く大きさに割るのは、この件でもやはり有効です。

③ ひとりで抱えず、つなぐ

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

この件は、管理担当者だけで解決できる案件ではありません。 そして、解決できないのは力不足だからではなく、もともと管理業務の外にある問題が混ざっているからです。片づけの技術ではなく、その人の生活を支える仕組みの話になっている。だから、つなぎ先を知っているかどうかで結果が変わります。

つなぐ先は、主にこの4つです。

1. 緊急連絡先・ご家族。 契約時に届け出のある緊急連絡先へ、状況を伝えて相談します。「片づけさせてください」ではなく、「最近お会いになりましたか。少し気になることがありまして」から始めるほうが、協力が得られます。ご家族が驚いて、そこから一気に動くこともあります。

2. 高齢の方なら、地域包括支援センター。 市区町村ごとに設置されている、高齢者の総合相談窓口です。介護保険の申請、見守り、家族との調整まで相談できます。管理会社から相談してよい窓口です。認知症の兆候が見えるときの進め方は認知症かもしれない高齢入居者、家族と地域につなぐ見守りの進め方に分けてあります。

3. 生活に困っている様子なら、自治体の福祉相談窓口・社会福祉協議会。 生活困窮者の自立支援の相談窓口が各自治体にあり、家賃の支払いや生活の立て直しの相談ができます。家賃の滞納が同時に起きているなら、督促よりこちらが先になることもあります。

4. 自治体の環境・生活衛生の担当課。 いわゆる「ごみ屋敷」への対応窓口を設けている自治体が増えています。名称も、どこまで動いてくれるかも自治体でかなり違うので、自分の管理エリアの自治体に一度電話して、担当課と対応範囲を確認しておくのがおすすめです。案件が起きてから調べるより、平時に一度聞いておくほうが早い。

そして、忘れずに。オーナーへの報告と相談も、この段階で入れます。 費用が出る話(清掃業者、害虫駆除、共用部の原状回復)はオーナー判断が要りますし、状況を知らないまま後で聞かされるのは、オーナーにとっても困ることです。報告は、①の記録をそのまま添えれば足ります。

それでも改善しないとき

支援につないでも、片づけが進まないことはあります。近隣への影響が続いているなら、次の段階に進みます。

順番としては、口頭での依頼 → 書面での改善のお願い(期限つき)→ 内容証明での催告 → 弁護士への相談。段階を踏んだ記録が残っていることが、あとの手続きで効いてきます。書面の段階の踏み方は深夜の騒ぎ・迷惑行為、記録から警告書までの段階の踏み方、解除まで視野に入るときは契約解除の内容証明を出す前に、条件と手順を確認する順番を先に見ておいてください。

ここで焦らないでほしいのは、段階を飛ばすと、いちばん強い手段が使えなくなるからです。記録のない解除は通りません。①でこつこつ書いた1行が、ここで効きます。

具体例:3つの部屋

Aさんは、③の1と2から。 緊急連絡先のご家族と地域包括支援センターに相談します。片づけの依頼より先に、生活を支える手が入るほうが早い。共用廊下の段ボールについては、避難の通り道が確保できるところまでを、その場で一緒に動かします。全部ではなく、通り道だけ。

Bさんは、まず安否確認です。 虫の苦情と滞納が同時に起きていて、インターホンに出ない。片づけの案件ではなく、連絡が取れない案件として扱います。緊急連絡先・保証会社・勤務先の順に確認を進め、状況によっては警察や自治体への相談も選択肢に入ります。片づけの話は、無事が確認できてからです。

Cさんは、急がなくて大丈夫です。 においの範囲と発生時間を記録しつつ、共用部と設備側の原因(排水口の封水切れ、ダクト、共用部の詰まりなど)を先に潰します。本人が「片づけている」と言っている以上、いま踏み込むと関係が切れます。設備の点検という正当な理由で定期的に顔を出し続けるほうが、結果的に室内の状況が見えてきます。急がば回れ、が効く型です。

同じ「ゴミ屋敷かもしれない」でも、動く先はまったく違います。部屋の状態ではなく、その人に何が起きているかで手を選ぶ——これが、この件の判断軸です。

影響

この進め方を通すと、いくつか変わることがあります。

ドアが開くようになる。 責めずに始めた訪問は、次につながります。逆に、最初に片づけを迫った相手は、次から居留守を使います。初回の一言が、その後半年の動きやすさを決めます。

近隣への説明ができるようになる。 苦情をくれた方に対して、「対応しています」だけでは納得されません。「◯月◯日に訪問し、ご本人と話をしています。関係する窓口にも相談しています」と言えると、近隣の不満は下がります。個人の事情は伏せたまま、進捗だけを伝える。この形が使えます。

最悪の事態を、少し遠ざけられる。 火災の危険がある部屋で、コンロ周りだけでも空いていれば、それは十分に意味のある一手です。全部片づかなくても、危ないところが1か所減っている。この件では、それを成果と数えていいと思います。

自分が壊れずに済む。 ひとりで抱えると、この案件は本当にしんどいです。つなぎ先を持っているだけで、「自分が何とかしなければ」から降りられます。降りることは、逃げることではありません。

一方で、すぐには片づかないことも正直に書いておきます。数か月、場合によっては年単位でつきあう案件です。だから、短距離走の構えで入らないほうがいい。記録を残しながら、月に一度顔を出す。その持久力のほうが、この件では効きます。

明日やること

全部やらなくて大丈夫です。次のどれかひとつで十分です。

チェックリスト

① 訪問の前に集めること

② 訪問のとき

③ 越えてはいけない線

④ つなぎ先

よければ、こちらも

関連用語

共用廊下の通り道が片づき、住人と管理担当者が並んで見上げているおだやかな場面
全部でなくていい。通り道が1本空いた、それが今日の成果になる。

最後に

この案件は、うまくいったかどうかが分かりにくい仕事です。片づいても誰も褒めてくれないし、片づかなくても誰かに責められる。玄関の前で足が止まったあの日のことを、あとで思い出すこともないかもしれません。

でも、あなたがノックしたことで、誰にも言えずにいた人が、久しぶりに人と話したかもしれない。家族に連絡がいって、そこから何かが動き出したかもしれない。コンロの周りが少し空いて、起きなかった火事があるかもしれません。

どれも、数字には残らない仕事です。それでも、確かに人の暮らしのほうを向いている仕事です。

明日は、記録を1行書くところからで大丈夫です。全部を背負わなくていい。つなぐ先を1つ知っておくだけで、この件はずいぶん違って見えてきます。