夕方の管理オフィスで、受話器を置いたまま次にどう動くか考えている賃貸管理担当者

家賃督促はどこまで?違法にならない時間帯・頻度・手段の線引き

夕方、今日3度目の不在。留守番電話のアナウンスを最後まで聞いて、受話器を置く。そのタイミングでオーナーから電話が入って、「もう鍵を替えちゃえばいいのに」と言われる。

——冗談として流せばいいのか、本気で止めなければいけないのか。その判断を、受話器を持ったまま一人でしている夜が、この仕事にはあります。

督促がしんどいのは、金額を回収できないことよりも、「どこまでやっていいのかが分からない」まま踏み込まされるからだと思います。強く出れば違法になるかもしれない。かといって何もしなければ、オーナーへの報告で「対応していない」と受け取られる。その真ん中に立たされたまま、判断だけを求められる。

この記事では、その真ん中に線を引きます。線が引けると、強く出るための根拠ではなく、「そこまではしません」と落ち着いて断るための根拠が手に入ります。

結論:督促でしていいことは、次の3つの条件を全部満たすものです。①相手は「本人へ」(と、保証人・保証会社)だけ——第三者に滞納を知らせない。②「記録に残す」手段でおこなう——電話・SMS・書面など、いつ何を伝えたかが後から確認できる形にする。③部屋と持ち物には「立入らない」——鍵の交換、荷物の持ち出し、締め出しはしない。この3つを守っていれば、時間帯や回数で常識的な範囲を保つかぎり、督促そのものは正当な権利の行使です。反応がないときは回数を増やすのではなく、手段の段階を上げます

まず、押さえるのはこれだけです。

  1. 連絡する相手を、本人と保証人・保証会社に限る
  2. いつ・どんな手段で・何を伝えたかを、そのつど記録に残す
  3. 部屋の鍵と中の荷物には手を触れない
  4. 反応がなければ、頻度ではなく手段(電話→書面→内容証明→法的手続)を上げる

何が起きているか:法律は「回数」を決めていない

まず、多くの人がつまずくところをはっきりさせておきます。

賃貸管理の督促について、「1日何回まで」「何時から何時まで」を直接定めた法律は、いまのところありません。 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)にも、督促のやり方そのものを決めた条文は置かれていません。

だから現場は迷います。基準がないのに、やりすぎれば違法と言われる。この「答えがどこにも書いていない」状態が、督促を必要以上に怖くしています。

では、何をもって違法・適法が分かれるのか。判断されているのは、回数そのものではなく、次の2つです。

ひとつめの自力救済は、裁判などの正式な手続きを経ずに、自分の力で権利を実現してしまう行為のことです。日本の法制度では原則として禁止されています。相手が家賃を払っていないという事実があっても、貸す側が自分の判断で部屋を取り返すことは認められていません。ここは例外がほとんどない、はっきりした線です。

ふたつめは、線がグラデーションになっています。深夜に何度も電話をかける、玄関前で大声を出す、勤務先に押しかける——こうした行為は、督促という目的自体は正当でも、やり方が度を越えたときに不法行為(民法709条)として損害賠償の対象になり得ると考えられています。実際、深夜の訪問や、玄関に貼り紙をして滞納を周囲に知らせるような督促について、慰謝料の支払いを命じた裁判例があります。

つまり、「請求する権利」と「請求のやり方」は別物です。権利があることは、どんなやり方をしてもいい理由にはなりません。逆に言えば、やり方さえ整えておけば、堂々と請求していい。ここが今日いちばん持ち帰ってほしいところです。

手順を小さく分けて:3つの条件で確認する

督促でしていいことを判断する3つの条件を、相手・手段・部屋の順に並べた図
迷ったらこの3つ。誰へ伝えるか、残る形か、部屋に触れていないか。

条件1:相手は「本人へ」——第三者に滞納を知らせない

督促の相手として問題がないのは、契約者本人、連帯保証人、家賃保証会社です。

一方、避けたいのが、これ以外の人に滞納の事実を伝えてしまうことです。

条件2:「記録に残す」手段でおこなう

督促の記録は、後で法的手続きに進むときの土台になると同時に、あなた自身が「適切な範囲でやっていた」と示す材料にもなります。守りの記録でもある、ということです。

残すのは、日付・時刻・手段・話した内容・相手の反応。この5点です(家賃滞納の督促記録、日付と手段でつなぐ経過メモの作り方)。

そのうえで、手段には段階があります

段階手段使いどころ
1電話・SMS入金遅れに気づいた直後。行き違いの確認を兼ねる
2書面(普通郵便・投函)電話に反応がない、または口頭の約束が守られなかったとき
3催告書(内容証明郵便)書面にも反応がなく、契約解除を視野に入れ始めたとき
4支払督促・少額訴訟・訴訟催告の期限を過ぎ、任意の回収が難しいと判断したとき

反応がないときに増やすのは、回数ではなく段階です。 同じ電話を1日に5回かけるより、電話1回とSMS1通を残して、翌営業日に書面へ進むほうが、実務としても記録としても前に進みます。

段階ごとの中身は、最初の一報が家賃が遅れたときの最初の一報、督促より先に確認したいこと、書面の書き方が催告書(督促状)の文面、丁寧かつ要点を外さず整える書き方、全体の流れが家賃滞納・督促の基本と落とし穴、慌てず段階を踏むための全体像にあります。

条件3:部屋と持ち物には「立入らない」

ここが、越えた瞬間に立場が逆転する線です。次の行為は、契約が解除されているかどうかにかかわらず、貸主・管理会社が自分の判断でおこなってはいけません。

これらは民事上の損害賠償だけでなく、住居侵入罪や器物損壊罪などにあたる可能性が指摘されています。「契約書に『滞納が続いた場合は鍵を交換することがある』と書いてある」というケースもありますが、そうした条項があること自体が、その行為を適法にするわけではありません。

この点では、最高裁が令和4年12月12日に出した判断が参考になります。家賃債務保証業者の契約書にあった、①賃料の支払を一定期間怠った場合に無催告で契約を解除できるとする条項と、②一定の要件がそろえば明渡しがあったものとみなして残置物を処分できるとする条項について、消費者契約法10条により無効とされました。契約書に書いてあっても、借りている人の権利を一方的に害する条項は効力を持たない、という考え方です。

だから、督促文の中に「期限までにお支払いがない場合は鍵を交換します」「お荷物を処分します」といった予告を入れるのも避けてください。実行できないことを予告するのは、威圧にあたると受け取られやすく、こちらの立場を弱くします。

連絡が取れないまま部屋の様子が気になるときは、連絡が取れない入居者への対応、安否確認まで段階を踏む手順夜逃げ?無断退去が疑われるとき、部屋の確認から手続きまでの順番の順序に沿って進めてください。荷物の扱いは残置物が残ったままの退去、処分の進め方と費用負担の考え方にまとめています。

時間帯と頻度は、何を目安にすればいいか

3つの条件を守ったうえで、残るのが「いつ、どれくらい」の問題です。冒頭で書いたとおり、賃貸の督促に数値基準はありません。そこで実務では、別分野の規制を目安として借りてくるやり方が広く取られています。

ひとつは、貸金業法21条1項の取立て行為の規制です。貸金業者に対して、正当な理由なく午後9時から午前8時までの時間帯に電話をかける・ファクシミリを送る・居宅を訪問することを禁じています。もうひとつは、国土交通省の家賃債務保証業者登録制度で、登録業者が守るべき事項として、威迫する言動、深夜・早朝の督促、貼り紙などで第三者に知らせる行為、動産の搬出、鍵の交換といった行為が禁止行為として整理されています。

どちらも管理会社の督促に直接適用されるものではありません。 ただ、「社会通念上、相当な範囲」を判断するとき、これらが実質的な物差しとして参照されているのが実情です。目安として使うぶんには十分に役立ちます。

現場に落とすと、こうなります。

落ち着いて説明できる範囲争いになったとき苦しくなる範囲
電話の時間帯平日の日中を基本に、遅くとも20時台まで21時以降、朝8時前、深夜
訪問の時間帯日中。不在なら不在票を残して引き上げる夜間の訪問、居留守と分かっていて長時間待つ
1日の連絡回数1〜2回まで。つながらなければ記録を残して翌営業日同日に何度もかけ直す、着信を延々と残す
手段の増やし方反応がなければ段階を上げる(電話→書面→催告)同じ手段の回数だけを増やす
玄関先での対応ドアの前で普通の声量、短時間で切り上げる大声を出す、居座る、退去を求められても帰らない
言い方事実と期限を伝える「出て行ってもらう」「勤務先に連絡する」などの予告

右の列を避けるのは、入居者のためだけではありません。あとで「不当な取立てを受けた」と主張されたとき、こちらの回収まで止まってしまうのを防ぐためです。線を守ることは、回収を諦めることではなく、回収を最後までやり切るための守りです。

なお、督促の場面では、こちら側が強い言葉を受けることもあります。その線引きはカスハラ気質な要求に、線引きと記録で自分を守る対応の順番に整理しています。あなたが受ける言葉にも、同じように線を引いていいということです。

オーナーから「もっと強く」と言われたとき

現場でいちばん多い板挟みが、たぶんこれです。

オーナーは、法的な手順ではなく結果を見ています。「先月も先々月も回収できていない」という事実だけが目に入るので、「なぜ鍵を替えないのか」「なぜ勤務先に電話しないのか」という話になります。その気持ち自体は、資産を預けている側として自然なものです。

このとき、「違法なのでできません」だけを返すと、対応していないように聞こえてしまいます。代わりに、次の3点をセットで伝えてください。

  1. やらない理由を、リスクの言葉に置き換える——「鍵の交換は、こちらが損害賠償を請求される側に回るおそれがあり、そうなると滞納分の回収も止まってしまいます」
  2. 代わりに進めている段階を示す——「今週、内容証明で催告を出します。期限は到達後7日で設定します」
  3. 次の分岐を先に見せる——「期限までに入金も連絡もなければ、契約解除の通知に進みます。そのあとは明渡しの手続きになります」

「できません」ではなく「この順番で進めています」という形にすると、話が前に進みます。契約解除に進む条件は契約解除の内容証明を出す前に、条件と手順を確認する順番に、回収手段の選び方は少額訴訟と支払督促、家賃回収の手段を落ち着いて選ぶ基本にまとめています。

もし入居者側から分割の相談があったなら、それは止まっていた話が動き出したサインです。合意を書面に残す形は家賃の分割払いを相談されたら、合意を書面に残す進め方を参考にしてください。

明日やること

大きく変えなくて大丈夫です。次の3つのうち、ひとつだけで十分です。

  1. 直近3件の督促記録を開いて、連絡した時刻だけを見る。 21時以降や8時前が混じっていないかを確かめます。もし混じっていたら、その時間帯に電話をかけない運用に切り替えるだけで、リスクはかなり下がります。
  2. いま使っている督促文のテンプレートを1回読み返す。 「鍵を交換します」「荷物を処分します」「勤務先にご連絡します」といった、実行できない予告が残っていないかを見て、あれば消します。
  3. 不在時に残すメモの様式を決めておく。 社名・担当者名・電話番号・「ご連絡ください」まで。金額と「滞納」の語は入れない形を、テンプレートとして保存しておきます。

チェックリスト

よければ、こちらも

督促全体の進め方は家賃滞納・督促の基本と落とし穴、慌てず段階を踏むための全体像に、最初の一報の掛け方は家賃が遅れたときの最初の一報、督促より先に確認したいことにまとめています。書面の段階に進むときは催告書(督促状)の文面、丁寧かつ要点を外さず整える書き方を、記録の残し方は家賃滞納の督促記録、日付と手段でつなぐ経過メモの作り方を、法令やガイドラインを実務で引くときの姿勢は賃貸管理の法令・ガイドラインの基本と、確認でつまずく落とし穴をあわせて読むと、線引きが立体的になります。

朝の明るいオフィスで、督促記録のノートを閉じて肩の力を抜き、穏やかに前を向いている賃貸管理担当者
線が引けていれば、次の電話はもう少し落ち着いてかけられる。

最後に

督促の線引きを調べる人は、たいてい「強く出る方法」を探しているわけではありません。強く出ろと言われている側が、それでいいのか確かめたくて調べています。

線を知っておくと、二つのことができるようになります。ひとつは、越えないこと。もうひとつは、越えないと決めた自分を、言葉で説明できるようになることです。「そこまではしません」と言えるようになると、督促の電話をかける前の気持ちが、少し変わります。自分がしていることの範囲が分かっているからです。

滞納の対応は、うまくやっても感謝されることのほとんどない仕事です。それでも、生活が苦しくなっている人に対して、追い詰めない形で連絡を取り続けているなら、それは十分に丁寧な仕事です。回収できたかどうかだけで測られる仕事ではありません。

今日は、督促記録の時刻を3件だけ見返す。それだけで、明日の受話器は少し軽くなります。

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