入居者からの排水トラブルの電話を受け、間取り図を見ながら状況を確認する賃貸管理担当者

排水の詰まり・逆流の連絡、専有か共用かを切り分けて手配する順番

「キッチンの水が全然流れないんです」。 「お風呂場から、なんか汚れた水が上がってきていて……」。

排水の連絡は、たいてい急ぎの声で入ってきます。しかも困るのは、電話を切ったあとです。すぐ業者を呼ぶべきなのか、まず自分が見に行くべきなのか。費用は入居者かオーナーか。判断がつかないまま手配して、あとで「その費用は誰が持つの」と言われるのが、いちばんこたえるところですよね。

でも、この判断は感覚で決めるものではありません。詰まっている場所がどこかが分かれば、動き方も費用の話もかなり整理できます。しかもその手がかりは、電話口の聞き取りだけでもかなり集まります。順番に見ていきましょう。

結論:排水トラブルは、業者を選ぶ前に「専有部の詰まりか、共用部の詰まりか」を切り分けます。切り分けの決め手は症状が出ているのが1戸だけか、複数戸か、そして逆流しているか否かです。①電話口で被害拡大を止める一次対応を案内する → ②症状の範囲を聞き取り、専有か共用かをあたりづける → ③範囲に応じて業者を手配する(共用側の疑いがあれば他の住戸にも一斉案内)→ ④原因が確定してから、契約書の負担区分に照らして費用を整理する。費用の話を、原因が分かる前にしないことが、あとの揉めごとをいちばん減らします。

進める順番は、この4つです。

  1. 電話口で、被害をこれ以上広げない一次対応を伝える
  2. 症状の範囲を聞き取り、専有部か共用部かをあたりづける
  3. 範囲に合わせて業者を手配し、必要なら他の住戸へも案内する
  4. 原因が確定してから、契約書に照らして費用負担を整理する

何が起きているか

排水の詰まりが判断しづらいのは、同じ症状に見えても、詰まっている場所がまったく違うことがあるからです。

集合住宅の排水は、大まかに二段構えになっています。ひとつは、キッチン・浴室・洗面・トイレといった各設備から、その住戸を出るまでの配管。もうひとつは、各住戸から出た水を集めて建物を縦に降りていく太い管(排水立管)と、そこから屋外の下水へつながる部分です。前者はその部屋の専有部、後者は建物全体で使う共用部にあたるのが一般的な考え方です(建物や契約によって線引きが違うこともあるので、最終的には契約書や管理規約の確認が必要です)。

専有部・共用部:ざっくり言えば、その住戸だけが使う部分が専有部、建物の入居者みんなで使う部分が共用部です。排水では「その部屋の器具から立管に入るまで」が専有部、「立管から先」が共用部と整理されることが多い、と覚えておくと現場で迷いにくくなります。

そして、詰まる原因も場所によって違います。専有部側は、髪の毛や石けんカス、キッチンの油や食べかす、洗濯機の排水口のホコリ——つまり日々の使い方でたまるものが中心です。共用部側は、立管の内側に長年こびりついた油脂汚れや、建物全体の排水量、まれに屋外の排水桝の詰まりなどが関わってきます。

だから、切り分けができていないまま業者を呼ぶと、部屋の中だけを見て「詰まりは取れませんでした」で終わることがあります。原因が立管側にあるなら、その部屋の排水口をいくら掃除しても解決しないからです。逆に、共用の高圧洗浄を段取りしたのに原因が洗面台の下だった、ということも起こります。ここを最初に見立てておくのは、あなたの手間を減らすためでもあります。

集合住宅の排水を、住戸内の配管と建物を縦に降りる立管の二段に分けて示した断面図
その部屋の器具から立管に入るまでと、立管から先。まずここを分けて考える。

まず電話口で伝える一次対応

到着や業者手配まで時間がかかりそうなときほど、最初の数十秒が効きます。難しいことをお願いする必要はありません。被害を止めるための最低限だけです。

最後の項目は、意外と伝え忘れがちです。入居者は良かれと思って何とかしようとしてくださるのですが、共用側が詰まっているときに強く押し込むと、階下の住戸で症状が出てしまうことがあります。「こちらで原因を確かめますので、いったん手を止めていただけますか」と、感謝を添えて伝えれば十分です。

聞き取りで、専有か共用かをあたりづける

一次対応を伝えたら、そのまま電話で次のことを確認します。この5つで、かなり見立てがつきます。

  1. 症状が出ているのは、その部屋のどこか(キッチンだけ/浴室だけ/部屋中の水まわり全部)
  2. 他の住戸でも同じことが起きていないか(同じ縦のライン、とくに階下)
  3. 逆流しているか(流れが遅いだけか、下から水が上がってきているか)
  4. いつからか、だんだん悪くなったのか、急にか
  5. 最近、何か流したものはないか(油、生ゴミ、ペットの砂、大量のトイレットペーパーなど)

見立ての目安は、こう整理できます。

ここで大事なのは、電話の段階で原因を断定しないことです。「たぶん髪の毛ですね」と言ってしまうと、それが違ったときに信頼が削れますし、費用の話にもつながってしまいます。「いくつか可能性があるので、まず見させてください」で十分です。

具体例:同じ「流れない」でも動きが変わる

たとえば、こんな三件が入ったとします。

Aさんは、症状が1か所で、時間をかけて悪化しています。手前の詰まり(髪の毛や石けんカス)である可能性が高いので、まずは訪問して排水口とトラップを確認するところから。急ぎの一斉手配は要りません。

Bさんは、その住戸の水まわりがまとめて不調です。器具ごとの詰まりというより、住戸を出るあたりで滞っている見立てになります。専有部側の奥である可能性もあるので、業者に室内側の調査を依頼しつつ、同じ縦ラインの他の住戸に症状が出ていないかも確認しておきます。

Cさんは、いちばん急ぎます。最下階での逆流と、上階の排水タイミングが重なっているというのは、立管側で滞っているときに出やすい典型的な形です。この場合、そのお宅を見に行くだけでは足りません。同じラインの住戸へ「しばらく大量に水を流すのを控えてください」と案内し、共用側の調査・高圧洗浄ができる業者へすぐ連絡します。被害が出ているなら、床や家財の状況を写真で残しておくことも忘れずに。

同じ「流れない」でも、動く範囲がまったく違うのが伝わるでしょうか。聞き取りの5項目が、この分かれ道を作ってくれます。

影響

切り分けをせずに動くと、じわじわ効いてくる負担がいくつかあります。

ひとつは、手配のやり直しです。室内だけ見る業者を呼んで解決せず、あらためて共用側の業者を手配する——時間もコストも二重にかかり、その間、入居者は不便なままです。

もうひとつは、費用の話がこじれることです。排水詰まりの費用負担は、原因によって考え方が変わります。入居者の使い方によって生じた詰まりなら入居者側の負担、配管の経年による汚れや共用部側の不具合なら貸主側の負担、というのが一般的な整理です(賃貸借契約では、貸主が使用収益に必要な修繕をする義務を負うのが原則で、賃借人の責めに帰すべき事由で必要になった修繕はこの限りではない、と民法で整理されています)。ただし実際の線引きは契約書の特約や修繕負担区分表で細かく決めていることも多いので、現場で口頭で「これは入居者さん負担です」と言い切らないのが安全です。原因が確定してから、契約書を見て、必要ならオーナーと相談する。この順番を守るだけで、あとの揉めごとはかなり減ります。

そして、共用側の詰まりを放置すると、別の住戸で被害が出ることがあります。1件の連絡が、実は建物全体のサインだった、ということも珍しくありません。「他の部屋はどうですか」と一言聞くだけで、その芽を早く見つけられます。

明日やること

全部を今日そろえる必要はありません。次のどれかひとつだけ、手元に用意しておきましょう。

チェックリスト

「全部を完璧に」ではなく、被害を止めて、範囲を見立てて、費用はあとで確かめる。この順番で十分です。

電話を受けた直後

専有か共用かを見立てる

手配と共有

原因が分かってから

判断に迷ったときの原則は、ひとつです。分からないことは、分からないまま丁寧に伝える。「原因を確かめてから、費用のことはあらためてご連絡します」は、逃げではなく誠実な対応です。入居者にとっても、根拠のない即答より、あとで覆らない説明のほうがずっと安心できます。

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関連用語

排水トラブルが解決し、水が流れる様子を確認して息をつく賃貸管理担当者と入居者
場所さえ分かれば、手配も説明も落ち着いて進められる。

最後に

排水の連絡は、困っている声が直接届くぶん、心理的にも重たい仕事です。「早く何とかしてほしい」と言われながら、自分は原因も費用も即答できない。その申し訳なさを抱えたまま業者に電話をかける時間は、けっこう消耗しますよね。

でも、あなたがその場で答えられないのは、力不足だからではありません。排水は、見えないところで起きているからです。だからこそ、見えないものを見立てるための順番——使用を止めてもらい、範囲を聞き取り、専有か共用かをあたりづける——が効いてきます。

今日は、聞き取りの5項目をメモ一枚にしておく。それだけで十分です。次に「水が流れないんです」と電話が鳴ったとき、あなたはもう、何から聞けばいいかを知っている状態で受話器を取れます。それは入居者にとって、想像以上に心強いことです。