8月下旬の管理オフィスで、壁の年間カレンダーを見上げながら次の募集の時期を考えている賃貸管理担当者

賃貸の繁忙期と閑散期、季節ごとに募集の打ち出しを変える順番

8月の下旬。ポータルの反響通知が、先週から一度も鳴っていない。写真も撮り直したし、図面も直した。仲介会社にも連絡を入れた。それでも問い合わせが来ない日が続くと、「自分のやり方が間違っているんだろうか」と、だんだん自信がなくなってきますよね。

先に一つだけお伝えしておくと、この時期に反響が細るのは、あなたの動きが悪いからではありません。賃貸の部屋探しには、人が動く季節と動かない季節があります。8月は、そのうち最も動かない時期のひとつです。同じ努力をしても、返ってくる反響の数は季節でまるで違う。だから大事なのは、季節ごとに「何をがんばるか」を切り替えることです。

結論:賃貸の募集は、1年を①繁忙期(1〜3月)→②転勤期(4〜6月)→③閑散期(7〜9月)→④準備期(10〜12月)の四つに分けて考えると迷いません。繁忙期は「決めにいく」より取りこぼさない段取りが仕事。転勤期は数は減っても真剣な人が来る時期。閑散期は条件を下げる時期ではなく、部屋と募集資料を整える時期。準備期は、1月に一番いい状態でスタートを切るための逆算をする時期です。いまが閑散期なら、無理に決めにいかず、③と④の仕事に切り替えて大丈夫です。

一度に全部を整えなくて大丈夫です。まず、いま自分がどの季節にいるのかから確かめていきましょう。

何が起きているか

部屋探しの数が季節で動くのは、引っ越しの理由の多くが「暮らしの節目」とつながっているからです。

日本では、学校も多くの企業も4月始まりです。進学、就職、転勤、異動。その発令や合格が決まるのが年明けから3月にかけてで、決まった人は「4月までに住む場所を決めなければならない」状態になります。だから1月から3月にかけて、部屋を探す人が一気に増えます。これが繁忙期です。

反対に、夏はその理由がありません。子どもがいる世帯は学期の途中で転校させたくない。単身の人も、暑いなかで荷造りをして内見に回るのはつらい。引越し業者の予約は取りやすい時期ですが、そもそも動く動機が生まれにくい。だから7月から9月は、募集を出しても反響が細くなります。

もう少し細かく見ると、山と谷のあいだにも小さな動きがあります。

そしてもう一つ、現場を苦しくしている事情があります。空室の焦りは、季節に関係なく毎日同じ重さでやってくるということです。反響がない日にも、オーナーからは「どうなっていますか」と電話が来ます。季節のせいだと分かっていても、そう言うのは言い訳のようで気が引ける。だから、つい何かしなければと思って、いちばん効きそうに見える「家賃を下げる」に手が伸びてしまいます。

季節の型を持っておく意味は、ここにあります。いまは何を仕込む時期なのかが言葉にできれば、焦って恒久的な判断をしなくて済むからです。

1年を四つの季節に分けて見る

賃貸の募集を繁忙期・転勤期・閑散期・準備期の四つの季節に分けて示した年間カレンダーの図
賃貸の募集は年間で山と谷がある。いまがどの季節かが分かれば、何をがんばる時期かも決めやすくなる。

四つの季節は、それぞれ「仕事の性質」が違います。

時期呼び方この時期の仕事
1〜3月繁忙期決めにいくより、取りこぼさない
4〜6月転勤期数は少ないが真剣な人に合わせる
7〜9月閑散期決めにいかず、部屋と資料を整える
10〜12月準備期1月に最高の状態で出す逆算をする

同じ「空室を埋める」という仕事でも、繁忙期にやるべきことと閑散期にやるべきことは、ほとんど別の作業です。順に見ていきます。

① 1〜3月(繁忙期):決めにいくより、取りこぼさない

繁忙期は、部屋を探している人のほうから来てくれる時期です。だからこの時期の勝負どころは、集めることではなく落とさないことにあります。

反響が1日に何件も来ると、返信が追いつかなくなります。追いつかないまま夕方になり、翌朝返信したときには、相手はもう別の部屋の内見予約を入れている。繁忙期に取りこぼす原因は、部屋の力ではなく、こちらの処理速度であることがほとんどです。

繁忙期に効く準備

繁忙期にやらないほうがいいこと

この時期に条件を緩めすぎないことです。1年でいちばん探している人が多い時期に家賃を下げると、その下げた家賃が入居中ずっと続きます。繁忙期に埋まらない部屋には、家賃以外の理由があることも多いので、まず内見はあるのに決まらない、設備と清掃から見直す順番のような順で原因を探すほうが先です。

② 4〜6月(転勤期):数は減っても、決まるときは早い

4月の中旬を過ぎると、反響がすっと減ります。繁忙期のあとだけに、この落差はこたえます。

ただ、この時期に来る問い合わせには特徴があります。期限が決まっている人が多いということです。期の変わり目の転勤、社宅の入れ替え、単身赴任。「来月から勤務地が変わるので」という理由で探している人は、迷っている時間がありません。

だから、この時期は件数ではなく1件あたりの丁寧さに寄せます。

③ 7〜9月(閑散期):決めにいかず、整える

そして、いまの季節です。

閑散期は、募集を強めても反響が増えにくい時期です。ポータルの掲載を上位に上げても、そもそも探している人の数が少ない。ここで焦って動くと、たいてい恒久的なコストを払う判断をしてしまいます。

家賃を下げたくなったとき、下げ方には種類がある

具体的に考えてみます。家賃80,000円の部屋が、8月の時点で空室2か月目だとします。

案A:家賃を5,000円下げて、9月に決める 75,000円で募集し直し、9月に入居が決まったとします。決まるのは早いかもしれません。ただし下げた家賃は入居中ずっと続きます。仮にその方が4年住んだ場合、5,000円 × 12か月 × 4年 = 240,000円の減収になります。

案B:家賃は据え置き、フリーレント1か月をつけて9月に決める 家賃は80,000円のまま、初月の家賃を無償にする形です。この場合の負担は80,000円 × 1か月 = 80,000円。一度きりで終わり、次の入居者の家賃は80,000円のままです。

案C:何もせず、1月の繁忙期まで待つ 9月・10月・11月・12月の4か月が空室のままだと、80,000円 × 4か月 = 320,000円の家賃が入りません。

この三つを並べると、少なくとも「案Cで待ち続ける」よりは、下げ方を工夫して早く決めるほうが負担が軽いことが見えてきます。そして同じ「決めにいく」でも、恒久的に家賃を下げる案Aより、一度きりで済む案Bのほうが痛みが小さい

もちろん、これは一例です。フリーレントは短期で解約されると持ち出しだけが残るので、短期解約時の取り決めとセットで考える必要があります。判断の順番はフリーレントをつける前に|メリットと注意点、判断の順番に整理しました。家賃以外に動かせる条件については募集条件の見直し、家賃を下げる前に試せる選択肢もあわせてどうぞ。

大切なのは、「下げるか、下げないか」の二択ではないということです。初期費用の調整、フリーレント、設備の追加、入居条件の緩和。動かせるつまみは他にもあります。そのなかで、あとから戻せるものを先に使うのが、閑散期の考え方です。

閑散期にしかできない仕事

閑散期のいちばんの価値は、時間があることです。繁忙期には絶対に取れない時間が、いまなら取れます。

閑散期の仕事は、その月の数字には表れません。だから「何もしていない月」に見えてしまう。でも実際には、1月の反響数を決めているのは、8月に撮り直した写真だったりします

④ 10〜12月(準備期):1月1日から走れる状態にする

秋が深まると、繁忙期のカウントダウンが始まります。この時期の仕事は、逆算です。

繁忙期に強い物件は、1月に慌てて動き出した物件ではありません。12月の時点で、写真も図面も条件もすべて決まっていて、あとは掲載するだけになっている物件です。

年内に済ませておきたいこと

  1. 募集条件をオーナーと決め切る。家賃、敷金・礼金、フリーレントの有無、ペットや楽器の可否、入居可能日。年が明けてから「オーナーに確認します」をやると、そのあいだに他の部屋が決まります。オーナーの判断が必要なことほど、早めに相談しておきます。
  2. 原状回復の工事を年内に終える。年末年始は職人の手配が止まります。1月に工事が残っていると、繁忙期の入口を丸ごと失います。
  3. 学生向けの物件は12月から出す。年内に進学先が決まる受験生がいます。大学や専門学校の近くの部屋は、年明けを待たずに掲載を始めておくと届きます。
  4. 入居可能日を早めに確定させる。繁忙期に探している人は「いつから住めるか」で絞り込みます。「相談」のままだと候補から外れることがあります。
  5. 社内の体制を確認する。1月から3月は、内見の同行も審査も契約もすべて増えます。誰がどこを担当するか、休みをどう回すかを先に決めておくと、現場が破綻しません。

具体例:同じ部屋でも、季節で打ち手が変わる

築15年、2DK、家賃80,000円のファミリー向けの部屋。6月に退去があり、7月から募集を始めたものの、8月に入っても反響がほとんどありません。

季節を考えずに動いた場合

8月の中旬、オーナーから「決まらないなら家賃を下げよう」と言われ、75,000円に改定して掲載し直しました。それでも8月中は反響が2件。内見は1件で、決まりませんでした。9月の後半にようやく1件決まりましたが、家賃は75,000円のまま。その方が4年住めば、240,000円の減収です。しかも、繁忙期の1月に80,000円で決まった可能性は、もう確かめられません

季節に合わせて動いた場合

8月は「決めにいかない月」と決めて、次の三つに時間を使いました。晴れた日の午前中に室内の写真を撮り直す。エアコンの入れ替えをオーナーに提案して、9月に工事を入れる。募集図面の設備欄を最新に直す。

9月の後半、下期の異動が動き始めた時期に、写真を差し替えて掲載を上げ直しました。反響は8月の3倍ほどに戻り、10月に「エアコンが新しいのがよかった」という理由で申込みが入りました。家賃は80,000円のままです。

やったことは、8月に決めにいくのをやめて、9月以降に効く仕込みに時間を振り替えただけです。特別なことは何もしていません。

もし10月にも決まらなければ、次は「11月にフリーレントをつけて出す」「それでも動かなければ、12月に条件を決め直して1月に勝負する」と、段階を残しておけます。手札を一度に全部切らないことが、季節を味方につけるということでもあります。

影響

季節ごとに打ち手を分けると、こんなところが変わってきます。

家賃を守れる可能性が上がる。閑散期の焦りから恒久的な家賃改定に踏み切るのを避けられれば、そのぶん物件の収益は長く保たれます。一度下げた家賃を戻すのは、入居中はもちろん、次の募集でも簡単ではありません。

オーナーへの説明がしやすくなる。「反響がありません」だけでは不安を与えてしまいますが、「いまは年間で最も動きが少ない時期なので、9月の異動期に向けて写真と設備を整えています」と話せれば、状況の共有になります。年間の見通しを一緒に持てると、オーナーも待てるようになります。

繁忙期の取りこぼしが減る。1月から3月は、準備の差がそのまま結果に出ます。12月までに整えておけば、繁忙期は目の前の反響に集中できます。

自分の仕事が計画になる。これが実は大きいところです。反響のない日を「何もできなかった日」ではなく「仕込んだ日」と数えられるようになると、空室のカレンダーを見る気持ちが少し変わります。

明日やること

全部を一度にやらなくて大丈夫です。明日できるのは、このうち一つで十分です。

  1. いまが何の季節かを紙に書く。「8月=閑散期。決めにいかず整える月」。デスクに貼っておくだけで、焦りの方向が変わります。
  2. 募集中の部屋を1つ選んで、写真を撮り直す日を決める。晴れた日の午前中。カレンダーに予定として入れてしまいます。
  3. オーナーに相談したい設備を一つ書き出す。エアコン、インターネット、宅配ボックス、インターホン。「繁忙期の前に工事をしておきたい」という切り口なら、話を切り出しやすくなります。
  4. 年内の退去予告・更新予定を一覧にする。年明けにどの部屋が空きそうかが見えると、準備期の計画が立ちます。
  5. 学生向けの物件があれば、掲載開始日を12月に設定する。年明けからでは遅い層がいます。

チェックリスト

季節ごとの確認に使ってください。全部に印が付かなくても問題ありません。

共通(いつでも)

1〜3月(繁忙期)

4〜6月(転勤期)

7〜9月(閑散期)

10〜12月(準備期)

なお、ここで挙げた季節の区切りは、あくまで一般的な傾向です。学生の街、工業団地の近く、リゾート地、法人需要の多いエリアでは、山と谷の来る時期がまったく違うことがあります。自分の担当エリアの反響数を月ごとに記録しておくと、数年で自分の物件に合ったカレンダーができます。この記事の四つの区切りは、その記録を始めるまでの仮置きとして使ってください。また、家賃や募集条件の変更はオーナーの判断事項です。提案として整理し、決定は必ずオーナーに確認したうえで進めてください。

よければ、こちらも

関連用語

秋のはじめ、明るく整えられた空室の窓を開けて外を見ながら、次の季節を待っている賃貸管理担当者
いま整えた一枚の写真が、次の季節の反響をつくる。数字に出ない月の仕事にも、ちゃんと意味がある。

最後に

空室の仕事がしんどいのは、がんばった量と結果が、その月のうちに結びつかないからだと思います。反響がない8月に、写真を撮り直して、図面を直して、仲介をまわって。それでもその月の成約はゼロで、報告書には「0件」とだけ書くことになる。

でも、賃貸の募集は、その月だけで完結する仕事ではありません。8月に撮り直した写真は、1月の反響数を静かに変えています。9月に入れ替えたエアコンは、内見に来た人が最後に決め手にする一つになります。結果が出る月と、仕事をした月がずれているだけです。

季節を知っておくことの本当の意味は、効率よく空室を埋めることよりも、動かない月の自分を責めなくて済むことにあるのかもしれません。反響が鳴らない日に、それでも部屋の窓を開けに行っているなら、その仕事はちゃんと次の季節につながっています。

今日は、いまが何の季節かを紙に一行書くところからで十分です。「8月=整える月」。それだけで、明日やることが変わってきます。

焦らなくて大丈夫です。山と谷は、毎年ちゃんと巡ってきます。