入居者の逝去を知らせる電話を受け、静かにメモを取る賃貸管理担当者

入居者が亡くなったとき、賃借権の相続と解約・残置物の進め方

「父が亡くなりまして……部屋はどうしたらいいでしょうか」。ご遺族からのこの電話は、いつも突然かかってきます。お悔やみを伝えたあと、頭の中では「契約はどうなるんだっけ」「解約は誰と話すんだろう」と、答えの見えない問いが一気に走り出す。相手は悲しみのただ中にいるので、こちらも言葉を選びます。この場面で慌てるのは、あなたが不慣れだからではありません。頻度が低いのに、決めることが多いからです。

先に結論をお伝えします。入居者が亡くなっても賃貸借契約は終わりません。契約は相続人に引き継がれ、解約は相続人の意思で行います。だから進め方は、次の4つの順番で考えると迷いにくくなります。

  1. 連絡 — 亡くなった日と、いま連絡がつく人を確かめる
  2. 相続人 — 誰が契約を引き継いだのかを確認する
  3. 解約 — 相続人と合意して、解約日を決める
  4. 精算 — 家財の扱いと敷金精算・原状回復を進める

この記事では、この4段階を一つずつほどいていきます。急いで全部を決めなくて大丈夫です。まずは「契約は勝手には終わらない」ことだけ、頭の隅に置いてください。

何が起きているか——契約は「終わる」のではなく「引き継がれる」

入居者逝去の連絡から精算までの、連絡・相続人・解約・精算の四つの段階
逝去の連絡が入ったら、この四つの順番で進めると迷いにくくなる。

賃貸借契約は、借りている人が亡くなったからといって自動的に消えるわけではありません。賃借権(部屋を借りる権利)も、家賃を払う義務も、預けた敷金を返してもらう権利も、まとめて相続人に引き継がれます(民法896条)。契約書に「賃借人が死亡したときは契約を終了する」と書いてあっても、その条項は借主に不利なものとして効力が認められにくいと考えられています。

つまり、こういうことが起きています。

ここを押さえておかないと、「ご家族が片付けてくれたから終わり」と思っていたのに、あとから別の相続人が現れて話が振り出しに戻る、ということが起こります。逆に言えば、最初に「誰が引き継いだか」を確かめておくだけで、後半がぐっと楽になります

なお、亡くなったあとに発生した家賃について、連帯保証人に当然に請求できるとは限りません。改正民法のもとでの個人の連帯保証(極度額の記載があるもの)は、主たる債務者が亡くなった時点で保証する範囲が確定するという考え方が取られています。つまり保証人が負うのは、原則として亡くなるまでに生じた未払い分までです。極度額の考え方は改正民法の連帯保証「極度額」、契約書での記載のポイントに整理しています。この点でも、解約日を早く確定させることには意味があります。

具体的な進め方——4つの段階を順番に

1. 連絡——まず確かめる3つのこと

お悔やみを伝えたあと、その電話で確認したいのは次の3点だけです。全部をその場で聞き出そうとしなくて大丈夫です。

そして「契約の解約や精算のご相談は、落ち着かれてからで構いません」と一言添えます。ご遺族は葬儀や役所の手続きで手いっぱいです。こちらの都合で急がせないことが、あとの話し合いをやわらかくします。

同時に、社内では次を確認しておきます。管理会社であればオーナーへの一報も、この段階で入れておくと後が滑らかです。

2. 相続人——誰が引き継いだのかを確認する

次に、契約を引き継いだ相続人が誰かを確認します。管理会社が戸籍を取り寄せることはできないので、窓口になる方に「相続人が何名いらっしゃるか」を教えていただき、必要に応じて戸籍謄本などの写しを見せてもらう形になります。

大事なのは、確認できていない相続人を「いないこと」にしないことです。「ほかにご兄弟はいらっしゃいますか」と一言聞くだけで、後の手戻りを防げます。

3. 解約——日付を決めて、書面に残す

引き継いだ方が確認できたら、解約の話に進みます。ここで決めるのは主に3つです。

そして解約合意書を必ず書面で交わします。口頭だけで進めると、あとで「そんな日付は聞いていない」となったときに拠りどころがありません。書面には、解約日・明渡し日・残された家財の扱い・精算方法を入れておくと安心です。

4. 精算——家財の扱いと原状回復

室内に残された家財も相続財産です。管理会社やオーナーの判断で勝手に処分することはできません。「もう亡くなったのだから」と善意で片付けてしまうと、後から損害賠償を求められる可能性があります。ここは、急がば回れです。

進め方は、原則として相続人に搬出していただくか、書面で同意をもらったうえで処分を代行するかのどちらかです。誰も引き取り手がいない場合は、相続財産清算人の選任を待つほかありません。実際の手順は残置物が残ったままの退去、処分の進め方と費用負担の考え方にまとめています。

なお、こうした事態にあらかじめ備える方法として、国が示している「残置物の処理等に関するモデル契約条項」があります。単身高齢者の入居時に、亡くなったあとの解約や家財の扱いを受任者に委ねておく仕組みです。備え方の全体像は高齢者の入居申込、断る前に整える受け入れ体制の作り方に整理しました。

原状回復と敷金の精算は、通常の退去と考え方は同じです。相続人にとっては初めての精算書ですから、負担区分の根拠をいつも以上に丁寧に添えると、話が進みやすくなります。確認の順番は敷金精算書を入居者に渡す前に、自分で見直すチェックの順番を参考にしてください。

室内で亡くなられ、特殊清掃が必要になった場合の次の募集での説明については、事故物件の告知義務、どこまで伝えるかの考え方に別途整理しています。

影響——最初の一手が、その後の3か月を決める

この対応が長引きやすいのは、たいてい「相続人の確認をあとまわしにしたとき」です。窓口の方一人と話を進めてしまい、解約直前になって「兄にも聞かないと決められない」と止まる。その間も家賃は発生し、オーナーには説明が必要になり、募集は始められない。手戻りの原因は、たいてい判断の速さではなく、確認の順番にあります

逆に、最初の電話で「亡くなった日」と「相続人の人数」の2つを押さえておけば、あとは通常の解約と精算に近い流れに乗ります。ご遺族にとっても、何を決めればいいかが見えている相手のほうが、はるかに話しやすいはずです。

そしてもう一つ。この場面での丁寧さは、ご遺族の記憶に残ります。悲しみのなかで事務手続きに追われている人に、順番を示して「ここまでで大丈夫ですよ」と区切ってあげられる。それは管理の仕事の中でも、静かに価値のある部分です。

明日やること

全部を今日そろえる必要はありません。まずは聞く3項目をメモしておくだけで、次の電話は落ち着いて受けられます。

チェックリスト

連絡を受けたとき

相続人の確認

解約と精算

よければ、こちらも

亡くなったあとの家財の扱いは残置物が残ったままの退去、処分の進め方と費用負担の考え方に、事前の備えは高齢者の入居申込、断る前に整える受け入れ体制の作り方に、精算そのものの段取りは退去日が決まったら動く、精算完了までの段取りリストにまとめています。あわせて読むと、突然の連絡にも見通しが立てやすくなります。

片付いた部屋の窓を開け、外の光を入れる賃貸管理担当者

最後に

入居者が亡くなったという連絡は、何度受けても慣れるものではありません。相手の悲しみに触れながら、こちらは契約や精算の話をしなければならない。その居心地の悪さに、少し疲れてしまう日もあると思います。

けれど、あなたが順番を整理して伝えることで、ご遺族は「次に何をすればいいか」が分かります。それは、悲しみのなかにいる人にとって、思っている以上に助けになる情報です。

一度に全部決めなくて大丈夫です。まずは亡くなった日と、話す相手を確かめるところから。そこまでできていれば、もう手続きは半分進んでいます。

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